第286章

女なんだから、少しは慎みってものがあるでしょ!

川崎正弘は忘れていた。そもそも貞操すらない人間に、慎みなんてあるはずがないことを。

川崎正弘はスマホを助手席へ放り投げると、エンジンをかけ、アクセルを踏み抜いた。車は勢いよく走り出す。

同じ頃――。

帝都の、とある住宅団地。

殺人事件が表沙汰になり、現場は封鎖。警官たちが団地の人工湖の周辺で、しらみつぶしに証拠を探していた。

少し蒸し暑い。

野呂栞は木陰に腰を下ろし、手にはみかん色の猫をぶら下げていた。まるまると太っていて毛並みもつやつや、撫でれば指先に気持ちよさが返ってくる。

みかん猫は十匹いれば九匹太ってる――そして残りの一...

ログインして続きを読む